大事なことはコミュニティから学んだ:ふーひーブレイク【第3回】

ふーひ

これまでの連載で、僕がキャスターを志したきっかけや仕事に繋がった実例についてお話しました。

連載第1回目で、もともと僕が「ポッ拳」をプレイしていたこと、そのコミュニティー内で実況をしたり、イベントを開いたりという経験を積んできたことを書きました。今回は、僕自身の原点でもあり、実況をする上で今もなお欠かせないと思っている、コミュニティーイベントについて話をします。

去年からいろんなゲームのオフラインイベント(以下、オフイベ)へ遊びに行くことが多くなったのですが、1人のゲーマーとしても、実況者としても、すごくためになる経験ができているなと感じているので、そのあたりのことをお伝えできればと思います。

スタートはコミュニティーから

コミュニティーイベントとは、「ユーザー主催によるオフイベの場」と定義して今回は話していこうと思います(※)。
※オンラインイベントもありますが、僕自身がオフイベの場に多く身を置いているので、今回はオフの場を中心に進めます。

イベントを開くには、いろいろな準備が必要になってきます。場所・機材・それらを用意するための資金など……。そういったハードルを乗り越えて、有志のユーザーさんたちが開催してくれています。

対戦ゲームをプレイし続けている多くのプレイヤーは、強くなること、公式で開催される大きなトーナメントで優勝する事を目標の1つにしていると思います。

オフイベントは、ときにはプレイヤー同士の交流を深めて対戦をしたり、情報交換をする場になったり、またあるときには「ガチ」なトーナメント形式のイベントを開くことで真剣勝負の場となったりといろんな側面があります。
そのコミュニティ大会そのもので優勝する事が名誉となり、公式大会と同じ、もしくはそれ以上の規模やクオリティになるオフイベントも今は多いと思います。

場所などに左右される面はありますが、大会に向けて日々練習をしているプレイヤーの多くがオフイベントにも来ているのではないでしょうか。

僕たちキャスターと呼ばれる人たちは、大会で選手たちの試合を実況するのが仕事です。ただ、選手たちは決してその大会にぶっつけで臨んでいるわけではなく、日々練習を積み重ねた先の挑戦なんですよね。

その練習のすべてを知ることはできなくても、オフイベントに来ることでそういった姿を見たり、ときには直接話したりして選手たちのことを知ることは、実況においてすごく重要な点の1つだと考えています。

また、自分がスタッフの経験をしてみるのもすごく役立つんじゃないかなと思います。僕も昔からポッ拳のオフイベントでスタッフをやっていますが、それがきっかけでいろんなプレイヤーと仲良くなれましたし、そこで実況という役割を見つけて今に至ったのは、第1回で書いたとおりです


キャスターとなった今でも、そのゲームを盛り上げようとしているイベントの主催者やスタッフの人たちの姿を知っておくだけでも、僕はけっこう心持ちが変わってくるなと感じています。

キャスターはその大会中は恐らく一番多く視聴者に言葉を届けるわけで、言うなればその番組の顔になってくると思うんです。それを自覚したとき、選手たちだけじゃなくて、イベントを開いたり運営したりする人達にとっても恥じない自分でいたいなと思います。

「これだけ情熱かけて動いている人たちがいるんだから、自分が手を抜くわけにはいかないな」と常に思わせてもらっていて、自分も実況に対してもっともっとと取り組むことができているので……。
僕の知っている限りの話ですが、今最前線で活躍している方々は、コミュニティーでの活動から地続きで上がってきている方がほとんどだと感じています。
「盛り上げたい!」と強く思えるタイトルを持っている方は、コミュニティーイベントでの活動から始めていくと、大切なことが学べるんじゃないかなと思います。

運営スタッフの経験を通じて交流の幅を増やす

イベントでスタッフをやったり、実況という役割を持っていて良かったなと思うことがもう1つあります。それは、別ゲーム界隈のスタッフたちともすごく仲良くなりやすいことです。

今は1つのタイトルだけじゃなくて、いくつかのタイトル合同で大会を行う機会も多くなってきました。僕自身、「ポッ拳」で「ARMS」や「スマブラ」と言ったタイトルと合同イベントを開いた経験があります。

このようなときは、別界隈の方々と交流を持つ良い機会でもあるんですけど、特に主催やスタッフをしている方とは仲良くなるのが早かったです。タイトルは異なれど、持ってる価値観などは通じるものが多いので、自然と話も弾むんだと思います。

仲良くなると、その人が運営しているイベントとかにも遊びに行ってみようかなと思うきっかけにもなりますし、実際行ったときも過ごしやすいです。友だちがとりあえず1人いるだけでも行きやすさは段違いですし、スタッフをやってる方ってコミュニティー内でも顔が広い方が多いので、人を紹介してもらったりして溶け込みやすくなる。

「ARMS」と共催して開いたポッ拳の大規模コミュニティ大会「カントートーナメント」の一幕。両コミュニティから合わせて200名が会場に集まりました

そうやって友たちが増えていくとやっぱり楽しいですし、知り合った人がきっかけでまた新しい人と出会えたりもします。

僕はつい1年ほど前はほんとに「ポッ拳」と「ディシディア」というタイトルでのみしか知り合いがいなかったんですが、いろんなイベントに顔を出しているうちにARMS、スマブラ、マリオテニスやぷよぷよ、ソウルキャリバーなどなど……、他にも両手では足りないくらいのコミュニティーの方と交流を持つことができました。

交流が広がることで得られた2つの経験

ただ知り合いが増えて楽しいだけではなくて、自分にとってためになっている部分もあります。まず1つはいろいろなタイトルの実況者の方と会うことができました。

「ポッ拳」で僕は実況してましたが、逆にポッ拳のコミュニティー内で実況をしてた人は基本的に自分だけで、同じ実況という立場にいる人と話したりする機会がまったくなかったんです。ただ、他のタイトルにはそのタイトルの実況者がいることが多いので、そういった方とお会いして実況についてあーだこーだ話し合えるのがすごくありがたい。

もう1つは、自分にはできないことを軽々とやってのけるすごい人たちに会える、というのがあります。これはガチ。

上述しましたが、イベントって選手やキャスター以外にも主催の方や運営の方、配信をする方とか本当にいろんな役割の人たちがいます。そして、こういう役割に携わってる方々はだいたいすごい。週に2、3回のイベント主催してる人、自分1人で機材を全部賄えるくらい所有してる人、その人1人いれば配信は完璧に行える人や自身が主催するイベントのタイトルをもっと多くの人々に知ってもらうため、渋谷の駅前で広報する人など……。僕は実況はできるけど、これらのことは全部できません。

表に出て目立っているプロゲーマーやキャスター以外にも、とんでもない熱意や行動力、技術を持った人たちがコミュニティーにはたくさんいて、その人たちと話しているだけで刺激を得られますし、自分も彼らに負けないようにがんばろうという励みにもなります。

そして何より欠かせないこととして、たくさん実況ができると言うことがあります。

正直な話、実況を練習するのは難しいものです。知識をインプットしたり、喋りを勉強したりしても、それだけでは現場で思いどおりにはいかないと思います。

YouTubeなどにある既存の対戦動画を見ながら実況してみるという練習をすることもありますが、1人でのイメージトレーニングの域をなかなか超えないと思います。最近は、実況解説セットでだいたい2人以上で喋ることがほとんどですし。

そうやって実践的な練習を積めないまま、がんばってイメトレしてさぁ本番だ、て言うのもけっこう心細い話だと思ってて。やっぱり、生の試合を喋ることが一番経験になると思うんです。

オフイベはそういう悩みをほとんど解決してくれてるなと感じていて、例えば僕は長く「ポッ拳」のコミュニティで実況させてもらっていたし、今でもオフイベントに行けばマイクを握らせていただくことも多いです。

誤解を恐れず、あえて極端な言い方をしてしまうと、コミュニティーイベントでする実況に責任というものはないと思っていて。真意としては、決して適当にやっていいと言う訳ではなくて、自分の真剣な哲学に基づいた試行錯誤ならばどんどん試していい場であると言うことです。
僕も仕事でいろんな実況をするようになりましたが、根っこで支えてくれているのはコミュニティーで喋ってきた経験だと思ってますし、仕事で感じた気付きを持ち帰って一度喋ってみたりとか、今なお自分の足元を固めてくれています。

いろいろなコミュニティーに遊びに行った際に、「ちょっと実況する?」と声をかけてもらうことも多くなってきていて、今は週に一度はなにかしら喋っています。本当にありがたいことです。

週に一度あるとわかっていれば、例えば1週間で自分がどれだけ知識を深められるかを試してみたり、そのイベントにいる人とコンビで実況をすることもありました。2人で喋るということは本当に難しいと思っているので、それを週単位で経験できていることは、すごく自分の実になっていると思います。

もちろん、既存のコミュニティーに行って「実況したいからさせてくれ!」と頼むだけでは受け入れられないケースはあると思います。そのイベントにはそこでがんばっている人たちがいる訳ですから。

けど、基本的にオフイベントにいる人たちはみんなゲームが好きで、同じゲームを好きな人たちにはほんとに暖かく接してくれます。

ゲームそのものに興味を持ってイベントに遊びに行き、その上で何度も顔を出したり設営や撤収を手伝ったりしてそこのコミュニティーの人たちと関係値を深めていけば、「実況をしてみたい」という自分の希望も受け入れてもらえると思います。
そのあたりは難しく考えることはなく、ゲームへの愛情やコミュティへの理解を持っていれば良い関係は築いていけるはず。

それから、もしどこかのイベントに遊びに行って、あなたがTwitterアカウントを持っているならば、そのイベント名とかを内容に入れてつぶやきましょう。できれば写真付きで。これほんと大事。

実況がしたい、キャスターを目指したいと思っている人には、「このゲームだけは絶対自分が実況したい!」と思えるような、いわばホームともいえるタイトルがきっとあるはずです。まずはそのタイトルのイベントに遊びに行ったり、もし可能であれば自分で主催してみたりして、自分の足場を1つ作ってみてはいかがでしょうか。

そのコミュニティーでの経験は、きっと自分自身の世界を広げる大きな助けとなると思います。

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記者プロフィール
ふーひ
ウェルプレイド所属のMC・実況解説者。
ゲームイベントの場において、公式大会・ユーザーコミュニティ問わず実況をしています。
得意なジャンルは格闘・対戦アクションゲーム。
イベント運営やコミュニティスタッフとしても活動中。

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