「プロとして絶対しちゃいけない発言だった」Yutorimoyashiが語る引退と復帰の真相

八木葱

【この記事は約8分で読めます】

Yutorimoyashiに「何か」が起きていることは明らかでした。

誰よりも朗らかだった笑顔が影を潜め、試合中に発する言葉は目に見えて減っていました。

誰もがその変化に気づいていたからこそ、引退発表への反応に「びっくり」「残念」と同じくらい「やっぱりそうなのか」という色がふくまれていたのだでしょう。

しかしその発表から2ヵ月、彼は帰ってきました。「やり残したことがある」という言葉を携えて。

3度のLJL優勝経験がある選手が急な引退を表明したのには、よほどの理由があるはずです。そして「何か」が起こったことは確かでも、「何が」起こったかまでは語られていません。

復帰後初めて会うYutorimoyashiが話してくれたのは、周囲の想像とはまったく違う真実でした。

V3 Esports入りで復活は古巣BCのおかげ

――まずは、おかえりなさいと言わせてください。

Yutorimoyashi:
ありがとうございます。まだちょっと気まずさはあるんですけど(笑)。

――すいません、今日はまさにその辺りの話が中心になってしまいそうなんですが、まずは単刀直入に、どうして引退だったんでしょう。

Yutorimoyashi:
自分が何をやってるかわからなくなっちゃった、という感じが近いですね。選手としてはプレイに集中して、勝つための方法を追求しなきゃいけないのに、いろんなことが重なってしまってだんだん自分がどこへ進んでいるのかが見えなくなってしまって。

――1つずつ聞かせてください。外から見ていて感じたのは、今回の一連の出来事はPENTAGRAM(以下、PGM)がなくなったところから始まっているんじゃないかな、ということです。

Yutorimoyashi:
PGMがなくなったこと自体は、僕の中で消化できていました。ただ、入ったBurning Core(BC)とPGMの間ではDaraのことがあったじゃないですか。

僕はBCに移籍したことで両側の話を聞いて、Daraは本当はどういう気持ちだったんだろうとなって、改めて考える時間が増えました。Daraと入れ替わる形での移籍だったことを不審に思う人もいたみたいで、僕の中では後ろめたいことは何もなかったんですけど、やっぱり気になったりはしますよね。

――あとは、moyashiさんはずっと優勝争いをしてきたからこそ、なかなか順位や状態が上がってこない状況はストレスになったのかなと。

Yutorimoyashi:
実は、それは全然大丈夫でした。勝負事だからうまくいかないのが当たり前だし、慣れてるので。

とはいえ、確かにギャップはあったかもしれません。RPGやPGMの頃は優勝争いが前提というか、LJLで優勝して国際戦で結果を出すことを目標にやっていたので、その手前で躓いたのは苦しかったですね。

――ちょっと厳しい聞き方になるのですが、BCがmoyashiさんとOnceさんと34コーチを獲ったのは、強いチーム作りを期待されてですよね。かなり難しいミッションだったとは思いますが。

Yutorimoyashi:
その期待は入るときから感じてたし、覚悟もしてました。試合の反省会だったりメンバーのケアだったり、僕にできることはやったつもりですけど、1人の人間には限界があることも思い知らされました。

僕もOnceも、コーチの34はもっとでしょうけど、優勝した経験があると自分たちの現在地が見えるんですよ。こういうことができる状態の時は勝てて、できてないと勝てない、みたいな。それが見えているのに、力不足でチームをうまく進められないのはもどかしかったですね。

――BCの人間関係がうまくいってないのでは? という声もありました。

Yutorimoyashi:
それは否定したいですね。シーズンを通じてチームの人間関係はかなり良くなってたし、最後まで悪い状態ではなかったと思います。仲良くなってからはRokiも筋トレを始めてくれましたし(笑)。

僕が現役に復帰するって決めた時に、移籍先について相談に乗ってくれたのもチームでした。BCは選手のことを考えてくれるチームで、本当に感謝してます。

思わず出てしまった弱音

――とすると、どんなことが一番moyashiさんを苦しめていたんでしょう。

Yutorimoyashi:
完全にプライベートな話なので詳しくはあれなんですけど、ちょっと親のことでいろいろあって……。

――話そうと思える範囲のことだけで大丈夫です。

Yutorimoyashi:
そうですね。僕は母子家庭なんですけど、ちょっと母との関係で当時問題が生じていて、それが自分ではどうしようもない問題だったのもあって。なんでこんなにいろんなことが同時に起きるのかな、うまくいかないなって追い詰められてしまっていました。

――ゲームの外側、見えないところでいろいろなことがあったんですね……。Spring Splitの後半は、外から見ていてもかなり精神的に厳しそうに見えました。自分でもキツイなっていう感覚はあったんですか。

Yutorimoyashi:
毎日練習して次の試合に備えての繰り返しだったので、実は自分的にはそこまで自覚はなかったんです。でも周りの人には「心配になるような状態だった」って何人も言われました。なので、もうその時点では自分のことを客観的に見られてなかったのかもしれないです。

――シーズン終盤にはSNSで珍しく弱音を吐いてましたよね。

Yutorimoyashi:
プロ選手として絶対しちゃいけない発言だったし、あれは100対0で自分が悪いです。言い訳の余地もないです、ごめんなさい。完全に自分のキャパを超えていて、どうしたらいいかわからなくなっていたんだと思います。

――確かに発言としてはダメだったと思いますが、聞けば聞くほどかなりキツい状況ではありますよね……。

Yutorimoyashi:
僕は完璧人間でも何でもないただのゲーマーだけど、でもリーグやチームもプロとして扱ってくれるし、ちゃんとしないといけないなって改めて思いました。

――moyashiさんは精神的には安定したタイプだと思っていたので、あの弱り方は見ている側としても「これは相当なことがあったのでは」とショックでした。

Yutorimoyashi:
自分でも割と安定している方だと思ってたし、周りからもそういう風に言われることが多かったんですけどね。

ただPGMのこと、Daraのこと、優勝経験者として期待してもらっているのになかなか結果がでないこと、そこに家の事情が乗ってきて、やっぱり限界がありました。その限界を知れたのは良い経験だったと思うしかないのかなって今は思います。

コーチか現役で揺れた気持ち

――引退を決めて発表してからは、コーチになる気持ちで固まっていたんですか?

Yutorimoyashi:
BCでコーチ兼マネージャーみたいな形で仕事をし始めていて、LoLも3週間くらいはやってませんでした。プロになってからはそんなに長くゲームから離れることがなかったので、久しぶりにやったときは緊張しましたよ(笑)。

――かなり本気でコーチに軸足を移していたのですね。

Yutorimoyashi:
オートチェスが流行ってたのでちょっと触ったりはしましたけど、マネージャーとかコーチになるなら、LoLのプレイ技術よりもコーチングとか話し方とかを勉強した方が役に立つなって。そのぐらいには、頭の中はコーチになる気持ちで固まってました。

――そこから現役復帰に傾いていったきっかけは何だったんでしょう。

Yutorimoyashi:
最終的に選手かコーチかを決めないといけない期限が迫ってくる中で、人生について考えたんですよ。自分は残りの人生で何をするんだろう、みたいな。大げさですけど(笑)。

――引退は大きなことですから、考えると思います。

Yutorimoyashi:
選手として目指してきた国際戦で結果を残すっていう目標は達成できてないし、SNSでダメな発言もしたし。このままだと失敗したままで終わっちゃうなって思ったんですよね。

もちろん失敗の経験をコーチや他の場所に活かす人もいると思うんですけど、まだ自分は選手として続けるチャンスがある状態で、そこで辞めるのは違うかなって。

――BCでの復帰という選択肢はなかったんですか?

Yutorimoyashi:
復帰しようと思ったときに、BCは今の新体制でもう動き出していたんですよ。YuhiもMedicも若くて、そういう選手を育成していくっていう方針で、そこに僕が入ってしまうと方向がブレちゃうということで断念しました。

――V3 Esportsに決めた理由は何かあったんですか?

Yutorimoyashi:
BCの方と相談しながら移籍先を探していたのですが、僕の動き出しが遅かったので、メンバーが固まってなかったのがV3だった、という経緯です。結果的にかなり強いチームになったとは思いますけど、選手としてもう1回トライすることが優先だったので、どこでも拾ってもらえるところがあればと思っていました。

――チームの状態としてはかなり良さそうですね。

Yutorimoyashi:
とてもいいチームだし、これからもっとよくなると思います。楽しみです。

――moyashiさんの選手姿を楽しみにしています。いつかmoyashiさんが引退する時が来るとしたら、どんな気持ちになっていたいかって考えたりしましたか。

Yutorimoyashi:
まだ再スタートしたばかりなのでわからないですね。ただ自分が出来なかった事や弱い部分に打ち勝って、自分に自信が持てるようになれてたらいいですね。

ファンの方々にも感謝の気持ちをちゃんとした形で伝えられたらいいなって思います。


一度は選手から身を引いたものの、後悔しないために選手への復帰を選んだYutorimoyashi選手。

苦しんだ当時のこと、今のチームのことなどを話す表情はやわらかくリラックスしていましたが、それに反して筋トレに励んでいる両腕はたくましく鍛え上げられていました。

後編では、LJL 2019 Spring Splitを制したDetonatioN FocusMeのMid-Season Invitationalでの勇姿を見ての感想に加え、筋肉へのこだわりを話してくれました。

写真・大塚まり

【あわせて読みたい関連記事】

YutorimoyashiがMSIでDFMを応援していたのは「国際戦の難しさがわかってるから」

Yutapon、GaengといったDetonatioN FocusMeのメンバーとの関わり、世界大会のキツさ、筋肉は裏切らない話が飛び出したYutorimoyashi選手インタビュー後半をお届け。

記者プロフィール
八木葱
eスポーツインタビュー&コラム。主にLeague of Legends、たまにストリートファイター、もっとたまにFPS、カードゲーム。

関連記事

注目記事

新着記事