第2回おいうリーグ「まはーら VS マッキー」新世代のぷよぷよ分析

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前回のALF対かめの伝説の1戦から時代は移り変わり、2018年3月。S級リーグの舞台はACからオンライン大規模リーグへ。
今回ピックアップする第2回おいうリーグの「まはーら VS マッキー(makkyu) 50先」は、圧倒的な実力で注目を集めたまはーらと、向上心に溢れる新進気鋭のマッキーによる1戦。前回に引き続き、live選手に解説していただき、新進気鋭なプレイヤーたちの思考と戦略を紐解いていく。
■前回記事
ネット上の存在と期待の新星による神試合
前回扱った2010年のALF VS かめ戦から時を経て、長年の研究で序盤手順がかなり定石化。似たような土台が増える傾向にありました。それに伴って、全体の飽和火力も向上し10万点以上が高火力とされる時代となった分、互いの状況を把握しやすい形が増え、現在のぷよぷよは将棋のようにより深い先の読み合いをする必要が出てきています。
そんな中、ひときわ異彩を放つ存在がありました。10年以上前からスタンダードな実践形土台とされている「GTR」を頑なに組み続けながら、今までの強豪を軒並み倒していくネット上の異端者。誰もその素顔を知らぬ者。それがまはーらだったのです。
そのかたわら、どんな技術も実地で習得し、どんな戦術もすぐさま使いこなせるようになる若者がいました。その恐ろしいほどの成長速度で最上位に肉薄し、刃を突き付けてきた存在、みなさんご存知であろう、プロの若手の顔役にも等しいマッキーです。
ぷよぷよの歴史の中には、それぞれの時代に「最強」と呼ばれる者たちがいましたが、この2人には今までの最強伝説を塗り替えるほどの圧力と凄みがありました。新時代の幕開けを予感させた試合を解析していきます。
20:40~:まはーら、中盤をしながらの15連鎖124,000
まさしく、まはーらの代名詞ともいえる試合がこちら。GTRと呼ばれる土台をベースとしながら、縦に複雑な連鎖を組み上げて中盤戦を展開。一度打ち合いをしてもまはーらは相手の動向を読んでいるので、そう軽々には潰されることがありません。細かいところもちゃんと対応しつつも一気に伸ばしていって発火していきます。
マッキーも「弥生時代」と呼ばれる序中盤に強い土台を使いながら、器用に大連鎖を組んでいるのですが、まはーらの読みの深さが脳裏にちらついて小連鎖での仕掛けをためらっているシーンが目立ちます。細かく崩してもなおそれを加味した行動で返してくるのですから、こちらから連鎖を確定させる行動はとりたくない。彼の心境は非常によくわかりますね。
駆け引きをした上で15連鎖124,000ですよ。10年前の対戦ではまず考えられない回収力です。これが比較的頻繁に出てくるからどうしようもない。少し前だったら9~10万で大火力と言われていたのに、彼が一気に近年における火力を引き上げましたね。
45:09~:単発催促からの伸ばしでまはーら勝利
まはーらがGTRの土台を組まない珍しい試合です。初手の組み合わせでGTRが組みづらいパターン(ABACBCツモ)なのですが、少し効率を度外視してもまはーらはGTRを組む傾向にあります。しかしこの場合は、さらに次に見えるネクストで全消しが視野に入っているため、それに対応できる置き方をしたわけです。

3手目の置き方がこちら。ネクスト、ネクネクを見て紫、赤、緑の全消しの可能性を見出してこの置き方に
少し状況は進んで、1段目の緑発火での2トリが打てる状況をマッキーに見せておいて打たないことで、何も打たずに相手の形を変えているんです。マッキー側からすると、急に2トリを打たれるかもしれないので、発火点を露出しやすく折り返しを変化させながら左側に高く積んでいきます。
そこで、まはーらは1連鎖ダブルを打ちます。マッキーは、このままではぷよが足りなくなって負ける可能性があって本線を打たざるを得ないんですけど、それに対してまはーらは組み替えて伸ばしきって十分量で返してしまう。
実況のぴぽにあも「0連鎖催促」(1連鎖催促)と言っているように、最上位のレベルでは自分の連鎖を相手に見せることにより相手に制約を課す動きが多発します。攻撃からの攻撃、連携を予約して相手に予測させることで、どうしても本線を打たなければいけない状況を作り出して有利を取っていくという非常にハイレベルな技術です。大胆かつ緻密な戦略性がうかがえます。
47:54~:別ルート緊急発火を見つけるマッキー
ここはマッキーがいい判断をしたところですね。
終盤に差し掛かってきたところで、マッキーが1連鎖を打ったところ。まはーらが4連鎖を合わせて、それに対してマッキーも対応をしているという場面です。
まはーらとしては対応されることはすでに織り込み済みなので、本線を即合わせにいきます。これは相手の時間を削りにいく行動で、とても鋭い判断です。マッキー側は青が3つ、赤が1つ引けなければ本線を発火できずに刺さってしまう形になるんですが、その猶予をなんとたった3手分にまで削っているんです。

マッキーには残り2連鎖分の時間しか与えられていない場面。発火には赤1つ、青3つが足りない
しかしマッキーは、新GTRの派生形である右折だった土台を左折に一瞬で変えています。このネクストやネクネクで青が1つも見えないことを察知し、自身の連鎖が消えている間に既に別のルートを検索していたのです。
ギリギリの死線を潜り抜け、さらなる6連鎖でまはーらの追撃をかわしたマッキー。彼の柔軟性の高さ、さまざまな形を扱える経験値の高さが光ったシーンと言えるでしょう。
1:04:55~:13連鎖対15連鎖
最後に取り上げるこちらは、15連鎖を13連鎖で返すという離れ業。いったい何が起こったのか……? と試合当時も話題になったところです。
お互いに大連鎖の流れに持っていく様子は見せているんですけど、特にマッキーが隙なく、最短手順で伸ばしています。これはもう流石に火力で勝つだろうと思いきや、まはーら側は連鎖尾側で連結を足す! それによって火力アップを狙い、10連鎖ダブル、11連鎖ダブル、12連鎖からの13連鎖の連結で圧巻の回収力を披露しギリギリ返しました。普通では起こりえないはずの、15連鎖を13連鎖で返すということを実現しているのです。
ここで苦しかったのはマッキー側でしょう。15連鎖109000点を先に打っても安全圏内ではないということを深層心理に刻まれます。50本先取のような長期戦というのは、精神的に呑まれた側がどうしても崩れてしまうことが多いです。まはーらは後半に強いプレイヤーということもありますが、マッキー側のプレイ内容も決して悪いわけではないのにここから大差をつけられることとなってしまいました。
この2人の試合において、今回の内容紹介はまだまだ片鱗に過ぎません。私でも分析しきれていないことが多く、見るたびに勉強になることが山ほどあります。前回記事からほぼ10年ほど時代を飛ばすこととなったのですが、ひと目見てもわかるようにぷよぷよ通の戦略というのは今なお進化し続けています。
コアプレイヤーである私たちは至って普遍的なルールであり、いつまでも変容することのないゲームであるぷよぷよ通を何年も突き詰め続けている。
いったい、なぜなのか?
それは、地道に重ねてきた研究成果が着実に反映されるから。そして、新しいヒーローの誕生に立ち会えるからに他なりません。
みなさんは「観る」スポーツに何を求めているでしょうか。試合の面白さでしょうか。昂ぶる空気の一体感でしょうか。
例えば、私があまりよく知らないスポーツにおいて最も簡単に抽出できる情報は、その競技におけるヒーローの情報です。とある伝説を持った選手がいる。そういう人物の背景を知ることにより、観戦における面白さは飛躍的に跳ね上がります。たとえ競技のルールをあまり知らなくても、不思議と期待感と高揚感が高まります。
ぷよぷよ通が積み重ねてきた歴史は、スポーツ然とした選手層の厚さを生み出しています。それぞれが人間同士のドラマを生み出しています。選手間でのライバル関係、師弟関係も数多く存在し、背中を見て育ってきた者たちによる世代交代が幾度も起こっています。前回の感想戦でも触れましたが、彼らの今までの歩みにフォーカスすることは、観戦を何倍も面白いものへと変化させるのです。
ただ私は、個人的なことを申し上げれば現役至上主義です。まはーらというプレイヤーはネット上のみで完結し、誰もその正体を知ることなくひっそりと姿を消しました。彼が仮に戻って来ようとも、本人であるかどうかを裏付けるものはもはや何一つありません。
それでもなお、私が彼を取り上げる理由は何なのか。
理由はただ1つ。
彼が新たな伝説を作ったから。彼がヒーローとなったからです。
こちらは、第1回~第3回のおいうリーグS級の結果です。まはーらがいかに別格の成績を残しているか、マッキーがそれにいかに食い下がっていったか。一目瞭然でしょう。

第1回おいうリーグS級の結果

第2回おいうリーグS級の結果

第3回おいうリーグS級の結果
まはーらが新世代のヒーローとなったことは、マッキーにも大きな影響を与えました。彼は直に触れたその遥かなる高みを求めて、公式大会、非公式リーグ問わず、若手最強の座を確立していく物語を紡いでいくこととなります。新たに、ヒーローの座を受け継いでいくのです。
連綿と続いてきた戦いの歴史。その中で影響を受け成長する者たち。選手の熱気からさらに発展していく競技シーン。その盛り上がりを通すことによって、伝説と呼ばれたプレイヤーが再臨する懐かしさや、まったく新しい挑戦者が現れる興奮こそが、私たちの心をぷよぷよ通というゲームに惹きつけてやまないのです。
今よりもさらに、あまねく強者が飛翔していく世界。みなさんも観たくはないでしょうか?
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