ゲンヤ×ふーひ対談(後編)実況を通して感じたこれまでとこれから:ふーひーブレイク【第4回】

ふーひ

■前編記事

ゲンヤ対談(前編):ふーひーブレイク【第4回】

「キャスターになりたくて目指す」人材がもっと必要

ふーひ:この連載は実況してみたいと思っている人や、そういう立ち位置があるのは知ってるけどどうやっていくんだ? と思っている人に向けて、僕のこれまでの経験談を元にいろいろ話をしているんですが、後編ではゲンヤさんともそういう人たちに向けての話や、ゲンヤさんの思う後進者についての考えを聞けたらなと思います。

ゲンヤ:
じゃあ、まず自分はどうしてこの場にいるかと言うとですね。ふーひさんは、「キャスターになりたい」って思うタイミングがあったじゃないですか。僕は、正直それはなかったんですよ。気づいたら立ってたというか。

ふーひ:でも、そういうタイプの人の方が今は多いんじゃないでしょうか。僕はたぶん後進の枠というか、なりたいと思ってなった人間ですけど、今ゲンヤさんのように最前線にいる方って、自分のやりたいことをできる範疇でやり続けていたら、そこにどんどん需要が生まれていったというか。時代が追いついたじゃないですけど。求められるようになって、気づいたらっていうのはあると思います。

ゲンヤ:
そう、僕はそうです。ゲームセンターで大会やろうってなって。店長から「お前は声がでかいからやれ」って言われて、「わかりました」って。それがスタートなんで。

でも、こういうたまたま整った環境下で今後前線に立てる人間が生まれていくかっていうと、それはちょっと効率が良くないと思う。だから、ふーひさんみたいになりたくて目指す人間がいるべきだと思うんですよ。

これは普段一緒に実況解説する人が言ってたことなんですが、「やりたい」って手を挙げる人間は2種類しかいない説があります。1つはそのタイトルというかゲームのことが超好きな人。超好きな人がゲームを好きでいる形が実況っていうパターン。もう1つのパターンが「目立ちたい人」。

自分もこの意見には納得してますね。ゲームが好きか、自分が好きかみたいな。で、後者はあまり良い結果にならないことが多いと思ってて。けど、実際自分から手を挙げる人って後者の方が多いんじゃないのかなあっていうのが危惧している部分でもあります。

ふーひ:あまり良い結果にならないと考えている部分はどうしてですか?

ゲンヤ:
結局、それでもうまくやる人はうまくやると思う。けどそういう風に活動していっても、見透かされちゃうよとは思います。ゲームそのものを好きじゃないことを。

そういう意味では、ゲームキャスターとしては大成しないんじゃないのかなと。でも、もし評価されるんだったらそれはそれで良いとは思ってますね。

ふーひ:誰が聞いても文句なしにうまいと思うような実況スキルがあれば、それこそ後者の理由でやってても良いなとは思いますね。

ゲンヤ:
そうそう。それは別にそれでもいいなって思います。

ふーひ:きっかけ自体は「目立ちたい」が先行する部分があっても良いかなとは僕は思ってて。そういう人が大成しずらい理由って、今のeスポーツシーンはスタッフさんも選手ももちろん、タイトルやゲームへの愛に溢れた人たちが動いているからだと思うんですよ。

ゲームへの愛やコミュニティーへの理解をないがしろにしちゃうと、今は視聴者もみんなゲーム好きなんで「こいつなんだ?」みたいに思われちゃって受け入れられない。

でも、目立ちたいという気持ちから入って、実況のためにそのゲームを触って、結果として後追いでもゲームのことも好きになってコミュニティーにも入っていってという形だったらそれは良いんじゃないかなと思います。

ゲンヤ:
結果としては良いでしょうね。思っているのは、そこまでたどり着くまでに落ちる確率が高いのかなって思います。

ふーひ:目立ちたいだけだとやりきれない部分は絶対ありますよね。実況の準備とかってぶっちゃけ大変じゃないですか。

そのゲームを新しく始めて、技の名前、システム、キャラ性能を覚えようというゲーム内の話がまずあって、その後例えば長く続いているシリーズだと、この選手は前作だとどれくらい強かったのとかこの2人はこれまでにどんなドラマがあったのとかゲーム外のお話、プレイヤーの歴史についての部分がある。愛や情熱がない人だとそこで躓きそう。

ゲンヤ:
間違いないですね。余りにも情報って多岐に渡るから。鉄拳の業界は13年くらい前から、世界最強はどっちなんだって言われてた韓国の選手2人が今でも頂上を争ってて。
そのときの頃まで遡って調べられるかっていうと、できるんでしょうけど、そのときをリアルタイムで知っている僕とかの方がより場をスムーズに進められるという年月の差っていうのは出て来ますよね。昔からいる人の方が、より卒なくこなせる。

フィジカルスポーツに比べて、ゲームって選手生命が長いと僕は思ってる。だからキャスターも息の長い人の方がやれてしまう
傾向が出て来ちゃうんじゃないのかなっていうのは、危惧の1つとしてあります。障壁が高いかなと思うだけで、喋りのスキルや情熱があればクリアできる問題であるとは思いますけどね。

ただその一方で、ゲームへの愛があって、たまたま喋ることに才能があるやつがやれば誰でもできる仕事なんじゃないのかなとは、実は思ってはいます。

ふーひ:そう考えたことはあるかも。絶対に必要な特別なものっていうのは案外ないんじゃないかとは。それこそ、特別な才能はなくても勉強と経験、積み重ねでやっていけるとは自分も思ってます。

ゲンヤ:
そう。声が小さいとか、活舌が良くないとか、向き不向きはあるんですよ。でも、それをクリアしてる人ってそもそも多いし、訓練である程度改善可能じゃないですか。だから、そのゲームが好きな人なら誰でもやれんじゃね? って部分はある。問題点もありますが。例えば問題点で言うなら、そのゲームが好きで詳しく語れる人は、語れれば語れるほど選手として有能。

ふーひ:選手兼解説という立ち位置の人は多いですよね。

ゲンヤ:
僕たちみたいな立ち位置の人は、むしろレアですよね。ふーひさんが言ってくれた選手兼解説という立ち位置は、もちろん鉄拳にもいるし、他のゲームにもいるんでしょうけど、でもやっぱり大会には出場せずに芯となってその席に1日座っている人は必要なので。

選手としての自分を捨ててまでやるって決意できる人間は、おそらく少ない。それは、強くて詳しくて解説ができるほどの人であるほどそうだと思います。

ふーひ:僕もプレイヤーとしてガチだった時期はあるし、ほかの今キャスターと呼ばれている人たちも、おそらくプレイヤーとしての自分が主軸だった頃はあると思うんですよ。

そういう人たちはどこかでプレイヤーとしての自分を切って、こっちに比重を傾けた瞬間があるはず。きっかけは人それぞれでしょうけど。
その切らなきゃいけないハードルって言うのが、1つ良くない方向に高いなって思いはあります。

でも、でも、全員が選手と兼任してると、その人らがみんな勝ち進んだ場合どうすんのって話ですしね。あとは誰も負けてない最初とか。

ゲンヤ:
そのあたりは難しいですよね。だから、何人かは必ず専業の人がいないとダメだと思います。逆にふーひさんは、なんでプレイヤーとしての自分を切ったんですか?

ふーひ:理由はいくつかあるんですけど、単純に「実況が面白いな」って気持ちがどんどん大きくなっていったというのが1つですね。

実況をやり始めたきっかけは、ポッ拳が稼働して一番最初の大会だったんですよ。そこから実況をする人として周りのプレイヤーにも認識してもらうようになって、回数重ねるうちにどんどん実況にのめりこんでいったんです。ゲームやプレイヤー、ポッ拳を通して好きになったことを伝える楽しさみたいなのが芽生えていった。

ゲンヤ:
店員さんに振ってもらったので、自分から……ってやつですよね。

ふーひ:そう、やりたくて手を挙げました。そういう意味では、僕も喋りたいという気持ちからスタートしてる人間かもしれないですね。目立ちたいという思いがあったわけではないですけど。

ポッ拳は家庭用が出た時期を境にオフラインイベントが活発になって、続けていった今では規模もちょっとずつ大きくなっている。そうなると、スタッフ全員が選手として出たら運営が回りきらない部分があるんです。実況解説席も誰かがずっといた方が理想だし。

それでプレイヤーとしてがんばってる強いやつが我慢して……ってなるくらいだったら、自分が出ないで運営に回ろうという気持ちはありました。

少なくとも選手として出るより、実況解説席を埋める役割が自分のやるべきことかなと。やりたいこととやるべきことが一番重なってる席が実況でしたね。

ゲンヤ:
わかるところはありますよ。きれいごとみたいになっちゃうけど、僕は鉄拳を通してかなりいろんな人たちと知り合えて、楽しいと思う経験をさせてもらったので。結構1人でいるのが好きだったんですけど、人と接するのが楽しいと思えるようになったのも鉄拳のおかげだと思っているから。

じゃあ、逆に自分は鉄拳に対して何ができるの? って考えたときに、優勝することではなく喋ることだろって思ったのが2013年のMASTERCUPで初めて実況をしたときかな。
そのとき一番大きな大会で、選手として出るのではなくMCとしてその場に立つというのを選んだ理由はそれですよね。

ふーひ:その選択をして本気で良かったなと思えたのが、以前書いた「春拳」っていう大会でしたね。あの大会はポッ拳プレイヤー以外の人もたくさんいて、決勝トーナメントを客席から見ているのは負けてしまったプレイヤーと、ポッ拳を知らない人たちで。

終わった後にいろいろ反応をいただいたんですけど、ポッ拳すごかった、面白かったって声があの大会はかなり多くて。それがすごくうれしかったんですよね。

初めて観る人に面白いと思ってもらえた、負けてしまった選手も最後には楽しんでくれた。それを思わせたのは壇上で戦う選手なんですけど、その一端を担えたというか。選手たちの起こした火に、少しは薪をくべれたなと。あのときに実況に全力注ぎたいなって改めて思って、そのままウェルプレイドに所属となりました。

ゲンヤ:
なんか、僕がインタビューしてるみたいになっちゃうけど、1つ聞きたいことがあって。僕は今でも鉄拳をプレイする。大会に出ないだけで、プレイはプレイで全力。ふーひさんはそうはならないんですか?

ふーひ:これはかなり悩ましい問題なんですよね。去年の後半あたりから、ありがたいことに担当させていただくタイトルが増えてきましたし、今もいくつか動いているものがあります。
そうすると、やっぱり多く時間を使うべきなのは、まだ理解の浅い新しく始めたタイトルだなという気持ちがある。昔はプレイヤーとしてとにかくやり込んで、実況できるくらいの知識が自然についていったって感じだったんですけど。今は「実況するためにはまずここからここまでやろう」みたいな、実況ありきの時間の使い方になっている面は否定できないです。

ゲンヤ:
そうか、それは僕と違って複数タイトルだからなのかな。僕は鉄拳だけで、他のタイトルは別にやろうと思ってないので。極論言ったら、鉄拳をこれから1年間プレイしなくても1年後ある程度の実況はできる。でも他のゲームで、新しく始めたタイトルを1年休んだら、1年後質はかなり落ちますよね。

ふーひ:無理ですね。ひと月休んだら、もう無理だと思ってるぐらいですから。
でも、「他のタイトルの仕事があるから、こっちにはリソースを回せません」って言い出したら、それはもう僕が実況をやるべきではなくなってしまう。それこそ、コミュニティーの人にとっては、キャスターの忙しさなんて関係ないですし。

オフイベントに足を運ぶなどして、普段からそのゲームに関わりを持てるようにしたいしするべきだと思っています。時間をうまく作って、使いたい。

ゲンヤ:
要領の話にはなってきそうですね。ふーひさんと言えば、僕の中で複数タイトルやれるやべーやつっていう印象。

ふーひ:複数タイトルやれてこの悩みを解決してるすごい人たちもいますからね、先人がいるというのはかなりありがたいことなので、精進します。

オーディション開催で最初のチャンスを

ふーひ:後進の話に関連して、1つ「なんとかなるといいな」と思っている話があるので、良いですか?

ゲンヤ:
どうぞ。

ふーひ:今、ゲームキャスターになりたいって言ったら仕事にするって選択肢も出てくると思うんですよ。でも、なりたいって思ったときに、どう動けばいいかわかりづらいというか。世のゲームキャスターと呼ばれている人たちにどういう風に仕事が流れてきているかってプロセスが、外から見たときにかけらも見えないんじゃないかなと。
だから、やりたい! って思った人がどこからスタートしていいかわからないんじゃないかっていうのがすごくあります。

ここからは、僕じゃない別の人が言っていた意見になるんですけど。「企業にもゲームキャスター向けにオーディションやってほしいね」
とおっしゃっていて。大々的に募集をかけて、1回目のチャンスみたいなのを全員に与える。やりたいと思ってる人が手を挙げられる環境になってほしいなと。

ゲンヤ:
それは良いかもしれませんね。

ふーひ:自分の存在を知ってもらうのが一番難しいじゃないですか。1回目のチャンスをつかめばその後次があるかは自分次第だけど、
その1回目にたどり着けるかは現状、だいぶ運が絡んでくるんじゃないかと思っています。
そのあたりの仕事の流れが可視化されてくると少しは違ってくるのかなと。

ゲンヤ:
そうですね。実際、自分の周りにもそう言う人はいます。やりたいんだけど、どうしたらいいかわかんないって人。

親しい人だったら、「今度こういう大会あるから一緒にやろうよ」って言えるんですけど。そういう風になるのって地理的な部分で話しても
関東の方だけだし、加えて僕の目が届く人だけ。じゃあ違う人はどうしたらいいのってなっちゃうと、オーディションっていうのはすごく良いかもしれないですね。

企業側のこれを読んでいる方はぜひお願いします!

ふーひ:すごいスキルを持っているけど、自分を営業する方法がわからないっていう人が埋もれちゃうのは結構もったいないと思います。手を挙げたい人が土俵の端っこをつかむ方法はほしいですよね。

ゲンヤ:手を挙げられるっていうのは熱意があるってことなので、その熱意は活動をしていく上でいい方向には向くでしょうね。

鉄拳は日韓だけでのゲームじゃなくなってきている

ふーひ:2019年はどんなことをやっていきたいと思ってますか?

ゲンヤ:
僕はゲームのタイトルの話になるんですよね。鉄拳ワールドツアーが4月より始まりました。年末大会がファイナルとしてタイで行われます。去年はオランダのアルステルダムでやったんですけど。

ふーひ:すごい遠いとこでやったんですね。

ゲンヤ:
そうなんですよ。鉄拳の世界情勢は年々変化してて、韓国がめちゃくちゃ強くてそれを日本が追うって構図が崩れつつあり、かなり実力の平均化がなされているところです。予測にしかならないですけど、今年は今までで一番面白いツアーになるんじゃないかなと思っています。

今年のEVO Japan優勝したパキスタンの話題もありますし、インドも実は超強い。中東とか東南アジアとかがめちゃくちゃアツくて、日韓だけのゲームじゃなくなってきています。
その中で自分も喋らせていただく機会はあると思います。果たして日本は生き残れるのでしょうか? ぜひ見てください。絶対面白いから。

ふーひ:僕からはキャスターの話を。僕自身、活動を始めてから、いろいろなゲームイベントの場に足を運ぶようになって、さまざまな人と話をさせていただけるようになりました。人によってスタンスは十人十色ですが、今のゲームが活性化している波に乗って、自分たちの好きなタイトルもっともっと盛り上げよう、大会を開催してみんなでゲームやろうって共通した空気がどんどん大きくなっていっているのはすごく感じています。

それに伴って、僕らのような喋る人間の露出の場も増えて行っているし、eスポーツ、競技性を意識したゲームも今年から来年にかけて
もっともっと出てくるんじゃないかと。なので、「ゲームキャスターを目指すなら今だぞ!」とは思っています。

ゲンヤ:
そうですね。キャスターもそうだし、プレイングでも動画観戦でも良いんだけど、ゲームに触れ合っておくべきだと思いますね。やりたいと思っている人はもっとこれから触れ合う時間が増えてくるんだから、もっとゲームにのめりこんでいいと思うんですよ。

ふーひ:プレイもトークも、発揮する場が増えてきているのは間違いないと思うので、興味がある人は少しでも早く動いていた方がいい。先駆者であることに甘えてしまうとだめだけど、人より先に動くという事はそれだけで価値があると思うし、自分から積極的に動いていけば世界も広がって交流も増えて、意外となんとかなるもんなんだなっていうのは、ウェルプレイドに来てすごく経験させてもらいました。

「やりたいけど、どうすればいいかわからない!」と思っている人も、例えばイベントとかに足運んで人に会って、そのわからないという思いそのものを声に出して発信すると何かが変わってくるかなとも思うので。熱意を持っている人は、その熱意をどんどん周りに伝えていってほしいです。

ゲンヤ:
無責任な発言しますけど。その熱意もったままウェルプレイドの門を叩いてもいいわけですよね?

ふーひ:そうですね! どこまで言っていいのかわかんないんですけど、ウェルプレイドに来れば多分話は聞いてくれると思うんですよ。その後どういう風になるかはわからないですけど、悪い方向にはいかないと思うので! ぜひ弊社に。

ゲンヤ:
おいで。

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記者プロフィール
ふーひ
ウェルプレイド所属のMC・実況解説者。
ゲームイベントの場において、公式大会・ユーザーコミュニティ問わず実況をしています。
得意なジャンルは格闘・対戦アクションゲーム。
イベント運営やコミュニティスタッフとしても活動中。

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