スマブラのために「就職より大学院」あばだんごは常にベストの選択をする

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ウメブラをはじめとした大会で日々活躍するスマブラプレイヤーたちの中でも、実力と知名度ともにトップクラスのプレイヤーといえば忍ism所属あばだんご選手の名前は真っ先に挙がる。
長らく大会で活躍を重ねながらも、YouTubeでの配信にも注力し、チャンネル登録者数は12万人以上(※)にものぼる。
※2019年9月時点
「スマブラSP」発売以降、前作並の成績を出せていなったが、2019年8月に行われた「ウメブラSP4」で堂々優勝。EVO 2019でも壇上まであと一歩の9位タイとそのポテンシャルをいかんなく発揮している。
このインタビューでは、彼のこれまでの歩みを改めて振り返りつつ、プレイヤーとストリーマーの両方で活躍できる思考に迫ってみた。
目次
「どこまでやれるのか」自分の実力を知るために海外へ
――あばだんご選手は、今や多くのプロプレイヤーが存在するスマブラ界隈の中でも屈指の知名度ではないでしょうか。プレイヤーとして大会や宅オフに足を踏み入れた経緯を教えてください。
あばだんご:
NINTENDO64で発売された1作目から次のスマブラDXまでは普通に遊んでいたくらいで、スマブラだけじゃなくていろんなゲームをプレイしていました。
その後、WiiのスマブラXになってオンラインに対応したんです。そこでオンライン対戦をやってみたいなと思い、当時流行っていた「モバゲータウン」で友達を作って、一緒にやるようになったのが、知らない人との対戦を体験した最初の経緯ですね。
それから「スマコム」というスマブラ専門のコミュニティサイトを教えてもらってそっちに移ったんです。そこが一番強い人たちが集まっているらしくて。
で、スマコムで募集を見つけて行ってみたのが初めてのオフ大会です。当時、自分が住んでいたところから2~3駅くらいで行けるところでやっていたので「とりあえず行ってみよう」って感じで参加しました。
――初めてのオフ大会、結果はどうでしたか?
あばだんご:
そのときは予選落ちして、Bクラスのトーナメントで1回か2回勝ったくらいでした。
その場で知り合った家が近いプレイヤーに宅オフに誘われて、宅オフにも行くようになりました。高校1年生の頃ですかね。
――その後、海外大会にも行くようにまでなると。
あばだんご:
そうですね。
初めて海外の大会に出場したのは大学1年生の頃、スマブラXの4年目くらいの時期です。その頃は自分自信でかなり強かったと思っていたので力試しのつもりで行きました。
そこではあまり良い成績は出せなかったですね。
――海外のプレイヤーのレベルはどうでした?
あばだんご:
海外のプレイヤーはやたら反応が速いなっていう人がいましたね。人数が多いのもありますけど、人間性能が上振れているような人が結構いた印象を受けました。
あと、当時は僕たち日本のプレイヤーが負けると、USAコールが起きたり(笑)。現地の人は現地の人のところに集まって応援するので、特に配信外の試合がきつかったです。
最近は、「わざわざ日本から来てくれているのに」っていう考えの人が結構いるみたいで、USAコールはあまり聞かれなくなりました。
――当時はスポンサーがついていたりチームに属していたわけではなかったと思います。渡航費は自費で賄っていたのですか?
あばだんご:
自費ですね。前年に行った人がどのくらい必要だったかをまとめてくれて、だいたい20万円くらいで足りると。バイトして貯めたお金で行っていました。
当時はスマブラXを一番やりこんでいるという自信があって、どれくらいやれるかっていうのを経験しておきたかったという感じです。
――その頃にはもう他のゲームは全然プレイせず?
あばだんご:
最初の海外遠征まではスマブラしかやってなかったですが、その後はスマブラforがでるまでは、別のゲームだったらどれくらいやれるのかなって思って、いろいろ試すこともありました。
「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス」とか「ウルトラストリートファイターIV」とか。特にウル4は1年以上やって、最高でPP3,500くらいまで頑張って上げましたが、スマブラforが出たときにやめました。他にも「ポッ拳」も触ってましたね。
ウメブラ、EVOで意識したプロゲーマーの道
――学生時代、プロゲーマーになることはイメージしていましたか?
あばだんご:
そのイメージはなかったですね。その頃はスマブラのプロゲーマーはいなかったし、「ストリートファイター」とかのプレイヤーの選ばれた人しかなれないんだろうなと思ってたので。
そんな中、aMSaさんがスマブラfor発売前にプロゲーマーになって、そこからちょっとずつその道もあるのかなーと考え出しました。
明確に意識し出したのには2つきっかけがありまして、1つめが、ウメブラ8(※)。
自分は準優勝したんですけど、優勝したのがNietonoさんだったんです。
その直後にNietonoさんがDetonatioN Gamingに所属することになったので、「もし自分が優勝していたら……」という妄想が始まって(笑)。
※ウメブラ8:スマブラ for Nintendo 3DSを使った初めてのウメブラ
――確かにその妄想はしてしまいますね……。
あばだんご:
自分はというと、その後は海外でいい成績を日本人で最初に取りたいなと思って海外の大会に参加し、たまたまいい成績を残せて大会側から招待もくれるようになったりしました。
そして、EVO 2015でスマブラがメイン種目になったんです。
これ行くしかないと思ってドネーションを募ってなんとか出場でき、4位になれたんですけど、ここが2つめのきっかけになります。というのも、僕以外のトップ8に入った選手が全員スポンサードされたんですよ。それを見たら羨ましくなりました。
プロゲーマーを目指したきっかけとしては、これが一番大きいですかね。そこからはスポンサードされるようなプレイヤーになることを意識して頑張り始めました。
――ZeRo、Mr.R、Nairo、Ally、Esam、Dabuz、Fow……EVO 2015の上位は錚々たるメンバーですね……。
あばだんご:
ですよね。今でも世界トップレベルのやつらばかりっていう(笑)。
――あばだんご選手はその後、実際にスポンサーを得たのは?
あばだんご:
翌年のEVO2016でもベスト6に入ることができて、そこから紹介を受けてカナダで一番大きなゲーミングチームのLuminosity Gamingに入ったって感じですね。
――その頃はちょうど大学卒業の時期ですが。
あばだんご:
そうなんですが、僕、大学院に進んだんですよ。EVOもあるし、もうちょっとプレイヤーをやりたいなって考えていて、社会人になるのはまだ早いなと。
たまたま、研究室のボスがかなり理解のある人で、日程を詰めてやることちゃんとやれば海外遠征も行っていいことにしてくれたので、そしたら社会に出るよりは大学院に進む方がいいと思いました。
――同級生が就職するタイミングでもあると思いますが、進むキャリアで悩んだことはなかったですか?
あばだんご:
理系だったので大学から就職する人はあまり多くなかったんですよね。大学院に進んだりする人が多くて。なのでその感覚はあまりなかったかも。
――理系だったんですね。私も大学は理系だったのでなんとなく想像できるのですが、実験や課題などが多くてスマブラの大会に出たり練習したりするのは大変だったんじゃないですか?
あばだんご:
きつかったですね。
ただ、情報工学科だったこともあって、学校にいなくてもリモートでできることが結構あったんですよ。そのおかげでやれたっていう部分はあります。
スマブラはYouTubeがブルーオーシャンだった
――大学院卒業後、就職せずに今はプロゲーマーになりました。
あばだんご:
大学院の2年目に普通は就活のフェーズになるんですけど、僕はLuminosity Gamingの契約期間だったこともあって特に就活はしなかったんですね。
それで、契約が12月に終わって、そこからは修士論文とかをやって、卒業後は1年間くらいはゲームで稼ぐ道をなんとか考えてやっていこうと思っていました。
修論が終わってから、YouTubeがかなりブルーオーシャンだと気づいたんです。
で、去年の2月くらいにYouTubeを始めようと思って、再生数の伸ばし方をちょっとずつ意識して、他のYouTuberを見てサムネの勉強もしました。
現役プレイヤーとしては割と先取っていたと思います。大会に出るようなプレイヤーで動画を作っている人があんまりいないなかったんですよ。
当時はYouTubeの動画って、低めの年齢層に受けるようなタイトルとかでインパクトを作らなきゃいけないですが、そういうのをみんながやりたくないと思っていたのか誰も手を出していなくて、そこで自分がちょっとやってみたら、かなりいけるなという感触を掴めました。
――それは先見の明がありましたね。
あばだんご:
そうですね。最初にやっておいて良かったなって思いますね。
正直、今から始めても、もう配信なんてありきたりだからキツイんじゃないかな。最初にスタートダッシュを切って、強いプレイヤーの中で一番登録者が多いっていう立ち位置を確保できたのはかなり大きいですね。
スマブラSPが発表されたのが3月だったんですけど、これは今のうちに登録者を集めておく時期だと。
発売されたらまずは登録者数が多い人を見に行くだろうから、意識して動いていました。
――なるほど……。スマブラSP発売時は、その狙い通りにいきましたか?
あばだんご:
発売前に35,000人くらい登録者がいて、発売後は毎日のように配信と動画を上げたら、一気に10万人まで増えましたね。まさにバブル。
とりあえずは毎日のように配信と動画を上げていました。
これはゲームがすごいっていうことなんですけどね。人気のゲームじゃないとさすがにこんなに増えないでしょうから。
YouTuberが職業として定着していた時期ではありながら、スマブラに限ってはまだまだブルーオーシャンであると見抜き、強いプレイヤーで一番登録者が多いポジションに立つ。
今の知名度を得たその自己プロデュースの手腕はスマブラ勢随一のものではないだろうか。
その思考は個人のためだけでなく、Smashlogの立ち上げ協力というコミュニティレベルの動きへとつながっていく。
インタビュー後編では、スマブラSP発売以降のプレイヤーとしてのあばだんご選手に迫っていく。キャラクター選びの哲学やキーコンフィグの設定やその意図まで明かしてくれた。
写真・Yumiko Mitsuhashi
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