田口アナのゆるふわポップなeスポーツ実況論

Mako(WPJ編集部)

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■前編記事

テレ東田口アナの規格外なロックマンDASH愛

局アナでもeスポーツ実況が可能に

――留学から帰国後、就活の時期に差し掛かることになるわけですが、アナウンサーを目指したきっかけは?

田口:
アナウンサーの体験会みたいなものがあって行ってみたら、各局の人から「割といいんじゃない?」「目指してみたら?」って言われてその気になってしまったという感じです。

もっと本質的なことを言うと、F1がすごく大好きで、F1実況だけはずっとやってみたいという夢はあったんですよね。フジテレビの三宅正治さんの実況が大好きで。なので、モータースポーツ中継をしている局を受けましたね。

――入社後、モータースポーツ実況を担当されていかがでした?

田口:
なかなか機会に恵まれず、まだやったことがないんですよね……。

でも、でも4年間仕事を続けてeスポーツの仕事ができたのでそれは本当にうれしい!

――入社当時はeスポーツの番組はなかったですもんね。

田口:
そうですね。今のような盛り上がりになるなんて思わなかったですね。

入社2年目くらいのときに、始まりたてのRAGEを観に行ってこれは面白いと思い、「うちでeスポーツやってみませんか?」と部長とかにコソコソ話してはいましたが。

――インタビュー前編で聞いたゲーム遍歴的には1人で楽しむゲームがメインでしたが、格闘ゲームやFPSなどの対戦要素が強いゲームでよくプレイしたものは?

田口:
「メタルギアソリッド3 サブシスタンス」に収録された「メタルギアオンライン」ですかね。

同じ中学校に北村くんというゲーム好きがいて、彼に誘われてやってみたらボコボコにされたんですけど、夜な夜なプレイするほどハマりました。

格ゲーもゲームセンターで「MELTY BLOOD」をずっとやってました。

――ゲームの大会、イベントでの実況の仕事はここ最近でかなり増えたのではないですか?

田口:
そうですね。以前から「やってみない?」とお声がけいただいていたんですけど、僕はテレビ東京のアナウンサーなので外部のイベントには出演できなかったんですよ。

ただ、2018年12月にテレビ東京で「TOKYO eSPORTS HIGH!」というプロジェクトが立ち上がって、その一環で社内の方々の尽力もあって編成局の規定を変え、eスポーツに関しては出演できるようになりました。

そこからは、ありがたいことに毎週のように実況をやらせていただいています。

今まで実況したタイトルは、「伝説対決 -Arena of Valor-」「シャドウバース」「ドラゴンクエストライバルズ」(以下、DQR)、「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」(以下、スマブラSP)などですね。

――DQRでは、つい最近、勇者杯の実況をされていましたね。

田口:
DQRはドラクエの文脈があったということもあって、第1弾のころからずっとやってて、かなりハマったんですよ。それこそ、「勇者ああああ〜ゲーム知識ゼロでもなんとなく見られるゲーム番組〜」(以下、勇者ああああ)の板川プロデューサーと2人でずっとやってます。

最初のころはカードゲームとして面白くなるのかなと思いつつも、自分たち的には楽しんでプレイを続けていたんですけど、今は本当に素晴らしい環境になりましたよね。ちょっとトルネコが強すぎる感がなくもないですけど……。

勇者杯で実況したときは、ファンの熱量を含め本当に素晴らしい世界がありましたし、ずっと続けていきたいですね。

eスポーツではテレビのアナウンスは合わない?

――実況をする方たちの悩みの1つとして、準備のためにゲームをプレイする時間が足りずに苦労されているということを耳にすることがありますが。

田口:
そうですね。準備はしっかりとしますね。eスポーツに限らず通常のスポーツでもそうなんですが、アナウンサーの仕事の95%が準備です。

取材に取材を重ねて実況する準備をするんですけど、取材にかけた時間が100に対して喋るのは2とか、そのくらいの感覚です。ただ、それは全然苦ではないですし、しかもゲームという題材がそもそも好きだから、本当に寝ないでもやれるくらい天職だなって思いますね。

――Twitterでも番組の準備のためのノートをアップされていましたけど、かなり手間暇がかかってそうでした。

田口:
とことんやらないと気が済まないんですよね。

あれだけ準備しても、本番では失敗して「もっとやればよかった」ってなるんで。その繰り返しです。

まだ1回も完璧なものが出たことがないし、本番では何が起こるかわからないので完璧な実況というのは絶対に出ない。だからこそ準備は大切だと思っています。

――TwitterでスマブラSPのプリン vs プリンの試合に、田口アナが実況を入れた動画がかなりバズりましたね。

田口:
そうですね。たまたまTwitterであの試合の動画を見て、これに実況付けたら面白いだろうなって思ってやってみた感じですね。

友だちに見せたら面白いと言ってくれたのでTwitterに上げてみたんですけど、思っていた以上に反響がありました。

――その話を聞くと、普段から実況のことばかり考えてそうですね。でないと、あの動画が作られることはなかったんじゃないかと思います。

田口:
日頃から目に映るものは頭の中で描写しておけという先輩からの教えがあるので、エレベーターが上り下りする様とか、電車の窓から見える景色とかを、自分だったらどういうパターンで実況するか、いつも考えて言葉のストックをためています。

あと、小説をたくさん読みますね。独特な言い回しとかを見つけて自分の中にストックするんです。

何かを生み出すためにはインプットをしないと、アウトプットはできないですからね。どんなに忙しくてもインプットはするようにしています。映画やアニメも観ますしゲームもする。

「ゴッドタン」(※)の佐久間プロデューサーのインプット量が半端じゃないという話を聞いて、自分もそうするようになりました。カレンダーに、1時間刻みで読んだり見るものを決めているらしくて、その時間になったら見るんですって。

何歳まで全力でインプットできるかわからないので、詰め込めるときは詰め込もうと思い、アニメを1.5倍速で観ることもありますよ。面白いところはちゃんと見直したりしますけど。

※ゴッドタン:テレビ東京で放送中、芸人マジ歌選手権やキス我慢選手権などの企画で人気を博すバラエティ番組

――他の人の実況を見ることはないですか?

田口:
大きい大会とかはもちろん見ます。特に、アールさんの実況は好きですね。

ただ、それを見て参考にしたり、自分だったらここをこうして……みたいな実況目線での見方はしないですね。ただ純粋に楽しんでいるだけです。

――では、ゲームの実況に関しては、どうやってスキルを身に着けていったのでしょう?

田口:
例えばDQRの勇者杯を例にすると、まずターゲット層をばっちり決めるということを、かなり徹底してやりました。

どういう人がこの放送を観てコメントをするんだろうと想像したときに、カードゲームとしての面白さがあるんですけど、なによりドラゴンクエストのファンだと考えたのです。

なので、勇者杯では、戦略は解説の方にしっかり聞くという役割を徹底しました。あと、DQRの良いところってカードが場に出たときの演出にもあるんですけど、その場面で記憶に残る一言をバチッとはめられるかどうかを徹底しましたね。

例えば、ダークドレアムが出てきて全部破壊するときに、「ここでダークドレアムが出てきた!」と言うのではなくて、「破壊と殺戮の神 ダークドレアム!」と言うことで印象に残る、みたいな。細かい言い回しなんですけど徹底するようにしました。

――確かに、ドラクエファンにとってはその方が印象に残るし、何より楽しいですよね。そういった実況の組み立て方はアナウンサーをやってきた中で身に着けたものなんでしょうか?

田口:
スポーツ実況では、テレビ東京に植草朋樹という神様のようなアナウンサーがいるんですけど、その人から受け継いでいる思考がたくさんある中で、ゲームってやっぱり文脈が違うんですよ。

例えば、テレビではアナウンサーが言う「おはようございます」は語尾の「ます」を落とすことによって喋りにしまりが出るのですが、大会の会場のようにスピーカーを通して会場の空気を作る実況ではそれだと盛り上がらないんです。

勇者杯では第1試合でそれがわかったので、第2試合からは文末を上げて発音するようにしたんですね。そうすることで、観客のみなさんが拍手したり盛り上がったりしやすい空気を作れるというのは発見でしたね。

ただ、アナウンスメント的には正しくない喋り方なので、配信を先輩に観られると「ん?」って思われるんですけどね……。「そこはまだ探り中なんですいません。勘弁してください」とごまかします(笑)。

カッコよくなくてもゆるふわポップに

――このゲームの実況がやりたい、というタイトルって何かありますか?

田口:
スプラ! スプラ! スプラ! 去年1番はまったのが「スプラトゥーン2」だったのでぜひともやりたいです。アサリ以外はウデマエXに乗ってた時期がありましたよ。

TPSがやっぱり好きなんですよね。メタルギアオンラインで北村くんにボコボコにやられた悔しい思いが、今も残ってるんだと思います。北村くんを今でも追いかけているということですね。

あとは、もともとF1の実況がやりたかったので、「グランツーリスモ」みたいなレースゲームの実況をやりたい! 僕がモータースポーツ好きっていう情報はあまり知られていないと思うので、これ書いておいてください(笑)!

僕の中でゲームとF1の境はないですからね。F1の選手のトレーニングってゲームを使って行うケースもあるんですよ。

――これから実況を目指したいという人に向けてメッセージはありますか?

田口:
喋りの質を上げるのであれば、ゲームばっかりやっていてもダメなのかな?って思いますね。いろんなことができて、そのうちの1つにゲームがあるという方が、いい実況って言われる回数が増えてくるなって思いますね。

あと、実況のみなさんってカッコいいじゃないですか? 僕、カッコいい実況がキャラクター的にできないんですよ。カッコいい実況になろうと思ったけど無理だったから、ゆるふわポップな実況をしようと思って生活しています。

物事を全部かわいく捉えようと考えて、言葉集めとか風景の切り取り方をしていますね。だから、もし僕みたいになりたいという方がいらっしゃるのであれば、ゆるふわポップに物事を捉えてみてはいかがでしょうか?

それくらい柔らかく、真剣になりすぎなくてもいい。「たけしの挑戦状」の「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」の精神は割と大事なんじゃないかなって思ってますね。

――ゆるふわポップにはそんな深い意図があったと……。あと最後にロックマンDASHについて語り足りないことがあればどうぞ(笑)。

田口:
あ、いいんですか?

シャルクルスっていうトラウマなリーバード(敵)がいたんですよ。姿が見えなくて、足音が「カシャン、カシャン、カシャン」と近づいてきて、ロックをズシャ!っと貫いてゲームオーバーになってしまう。

そのトラウマを植え付けられていて、ロックマンDASHって怖い思い出が多いんですね。でも、また遊びたくなるゲームってそういう要素があると思ってて、かわいいキャラクターがいるからとか、美しい世界観がどうたらとかもそうなんですけど、あのときのトラウマに挑戦したいという気持ちになるんです。

他のゲームだと「バイオハザード」や「ダークソウル」もそういった要素がありますよね。

本当に素晴らしいゲームですよロックマンDASHは。


取材後、見送ってくれるときもロックマンDASHについて語り足りない様子だったが、未来のeスポーツキャスターのためのアドバイスや自身の実況論も真面目に語ってくれた田口アナ。今回の取材のために、わざわざ鼻メガネを持参してくれるなど、ゆるふわポップで優しさにあふれていた。

今後、ますますゆるふわポップに磨きがかかっていくであろう実況に注目せざるを得ない。

写真・大塚まり

記者プロフィール
Mako(WPJ編集部)
スマホゲームの攻略サイト、情報メディアを渡り歩いてウェルプレイドジャーナルに流れ着いた超絶新進気鋭の若手編集者。イベント取材では物販やコスプレイヤーに釘付けになりがち。

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